祈ることの他に教えるべき事はある

 末っ子の終業式が終わると、食育とやらの一貫で子供が学校で育てているミニトマトの苗を取りにこいと学校に言われる。
 日当りのよい場所に置かれていた事は知っているが、持ち帰られた苗はひょろひょろ。葉数も少なく節間が長い。バリバリ現役で光合成を担うはずの成熟葉は黄変萎縮し、展葉が完了する前に半数はすでに落葉して痕跡になっている。

 真ん中の子のミニトマトもそうだった。おまけに成育中に一度折損して脇芽から成長させてもっと成長が悪かった。

コドモは、きちんと世話をしないからだと言われ、毎日真剣に祈りながら水をあげていた。

 祈りの効果を信じていない僕は、水のやりすぎによる根系障害を疑い、あらかじめ僕の汲んでおいた水を使うように言い、給水量を把握したが、適切な水量を与えており、異常はなかった。

 一週間で黄変はますます進行した。

 一カ所にまとめすぎてナス科にありがちな連作障害で、菌類病になったか、pH不適合か?

 二週間、ほとんどの葉が落葉、花の一つもつけないまま枯死するのは時間の問題と思えた。

 いろいろ考えてじっと葉の枯れ方を観る。菌類病やモザイクウィルスの兆候はない。
 もう一度全ての仮定を排除して観察する。

 んー.....これは.....まさか......とんでもなく重症のカリウム欠乏じゃ......

 試みに液体即効肥料を100円ショップに買いにいき、汲み置きの水に1000倍希釈になるように投入した。

 劇的な効果! 翌日から黄変の進行が停止した。

 一週間、みるみる元気になるトマトをみていると、どんどん芽を付け、新たな展葉もちゃんと緑色を保っている。
 大丈夫だよ、これで枯れないよ、と子供に話した。
これまでの成長の遅れは取り返すすべもなかったが、何とか真ん中の子と鳥さんに数個づつのトマトが収穫できた。

.....しかし、なんでだ?

 食物を得るために親子で苦労してみて、後で種明かしがあるようなタイプの教育方針なのかと思ったら、「ちょっとしかとれなかったのは残念でした」だけだった。

 カリウム欠乏では作物が生育できないなんてのは、義務教育レベルの知識だ。誰でも知っていることになってる知識だよ。化学肥料で簡単に食い止められるし、有機でやりたければ木灰を混ぜた腐葉土や掻きとりの表土を使えばいい。

 毎日水をやる事や、様子を観察する事、そういう労力を乗り越えて収穫に至る事が目的だったのだろう?成育不良なんて教師が実験用の鉢でやってみせればいいじゃないか。

なんで土で手を抜くの?
ミニトマトは水だけで育つ生き物じゃないよ。

 本当に小一時間問いつめたくなって、怒ってしまったので、もう先生になんか言うのはやめにしといた。それを口にすれば、その時の私は多分怖い顔をしているし、先生もきっと萎縮してしまう。*1

 というわけで下の子のトマトの鉢は、うちに持ち帰られて2日の観察の後、「カリウム欠乏/窒素不足/リン酸不足」を宣告され、ごくわずかの速効性肥料と鉢周りに適応した緩効性肥料を与えられて、茎の生育不良による折損防止のために支柱を添えられてはいるものの元気に育っている。

 今年は残念な事に、特定の教員の問題ではない事が明らかになったわけだけど、先生になにか言うかどうかはゆっくり考える事にする。

*1:保育園の先生は泣かせた事がある。先生たちが善意だった事は認めるけど、それが幼児には命に関わる事だったからだ。