へぇ、そおだったんですかぁ

「ダメな議論」という本が世界の片隅で人気を博しているらしい。
http://d.hatena.ne.jp/Yasuyuki-Iida/20061103#p1

買って読んでみているが、しょっぱなから躓いてしまった。
「『人間は皮膚呼吸している』という常識は科学的には誤り」なんだそうだ。
ちょっと調べてみるとその根拠は「人間は両生類ではないから」となっていて、よくわからない。そこでウェブを検索して、どういう根拠でそのようになっているのか調べてみた。
皮膚科医が回答を与えているものが多いようだが、いずれも直接に人間が皮膚呼吸しない事を証明する実験に基づいてはいなかった。

皮膚呼吸否定派に特徴的なのは、まず、皮膚から二酸化炭素が出てくる事、これは認めていることだ。でも呼吸してないんだってさ。いや、出口があるんなら呼吸の一部だろうとは思うんだけど、排出オンリーだから呼吸じゃないそうだ。これはかなり困った。
そもそも、肺からの酸素の流れは赤血球中のヘモグロビンが担うが、二酸化炭素を取り込んだヘモグロビンは酸素濃度が高いとき、二酸化炭素を放出して酸素を取り込み、酸素を取り込んだヘモグロビンは二酸化炭素濃度が高いとき、酸素を放出して二酸化炭素を取り込む。つまり、酸素を運ぶ量と二酸化炭素と運ぶ量は同じなのだ。
皮膚から放出された二酸化炭素の元になった酸素はどこからどう運ばれてきたのか、気になる所だ。
安直に考えると、皮膚からわずかに放出される分程度は皮膚から吸収される、と考えるのがとりあえず自然だろう。

だとすると、「人間は皮膚呼吸している」事になる。

もちろん、ある種の服を着て、皮膚付近の二酸化炭素濃度が高い状態に保たれて酸欠で死んだとか、風呂で酸欠なんて事は日常体験しない。「人間は皮膚呼吸する必要がない」ということは言えるのにちがいない。多分、皮膚科医の言いたい事もそれなんだろうな。
 「人間は皮膚呼吸する必要がない」と言うべき所を「人間は皮膚呼吸するという常識は誤り」と言ってしまって「ダメな議論」になっちゃったって事なんだろう。

 つづいて「タラバガニをカニの仲間だと思っている人が多いけど、実際はヤドカリの仲間だ」ときた。
 .....ひーやめてー.....
 それって、生物学のうち形態分類学と系統分類学(簡単に言えば図鑑を書くひと)の分類基準を当てはめた場合にそういう生物だってことでしょうが。たとえば、生態学では生態に基づく分類をするので、陸生動物と底生動物は随分違う。種の同定については分類学的基準でやっとけば混同が起きにくいから、生物学では基礎情報として分類学は必要だけれど、あらゆる場面において一般的に有用な情報ではけしてない。
 仮に分類学的に考えるとしても、「カニの仲間」では、甲殻綱全体を指すのか、節足動物門全体を示すのかはたまたエビ目か短尾下目の事かまず不明じゃないですか。
 で、「タラバガニをカニの仲間だと思っている人が多いけど、実際はヤドカリの仲間だ」をちゃんとした分類学の言葉に翻訳するとおそらく「タラバガニを短尾下目と見誤る人が多いが、実際は異尾下目に属する」という事になります。で、普通の人に短尾下目と異尾下目を見分けて生活してる人いますかね?スーパーで売ってるタラバ缶詰や、冷凍パック見て、「短尾下目だ」と誤ってつぶやいたりしてるんでしょうか?
 基本的に「○○の仲間」ってのは分類学の基礎知識のない人に「言ってもしょうがないんだけど、分類の話をしなきゃならん」場合に使う言葉です。で、基礎知識のない人にそういう事を言っても基本的には意義がないような気がする。
 分類学的に分類しないで生きているのが普通の人に、「カニの仲間」とか「ヤドカリの仲間」とか科学的にしっぽをつかまれないような用語を使ってもっともらしい事を言う、これも「ダメな議論」なんじゃないかなぁ?
 
面白い本だとは思うんだけど、ちょっとガス抜きさせてもらった。
さぁ、続きを読もう。

追記:
この文章を読んで、飯田先生をあなどってはいけない。ここに書いてあるのは、この本は理系の「ダメな議論」の抽出にも使えるという事例だったりもする。