不動産についてのあれこれ

構造計算書偽造事件に関して、bewaadさんのところや、J2さんのところ、13Hzさんの所などにあれこれコメントを書き散らしている。
 自分でエントリを立てないと私のコメントに対する反論コメントがスレ違いで発生しうるのでちょっと迷惑だろうなと思っていた。
 コメントを重ね誤摩化そうと思っていたのだが、道義的に許されない気がしている。


bewaad氏の所では

保険制度ですが、損保には工事業者側の加入する保険としては工事保険ってのがあります。ただし、工事受注実績が一定額(年間30億くらい)を超えると加入できません。
 でも、いわゆるゼネコンというのは「包括引き受け人」で、重大な瑕疵を生じないようにする技術力とともに、工事の瑕疵を包括的に引き受けられるだけの債務保証能力、保険に加入するよりも自分でリスク管理した方が安いという規模の利益が揃ってなければ業としての存在意義はないんじゃないかと思います。
 普通は数千万円以上の工事は工事会社の財務内容や保険加入状況まで点検して発注するものだと思いますが....

13Hzさんのところでは
熊本ファミリー銀行について

「公正で正義性のある企業と取引すべきで、それが劣ると判断した場合、一定の厳しい判断をすることになる。どこでも救えばいいというものではない」

これは融資をする前に言うべき言葉ですね。

あるべき監視体制について

国交省国交省の検査担当部門を監視する場合、国交省自治体を監視する場合、国交省が民間検査機関を監視する場合と3ケース考えると、民間検査機関が検査するケースが一番「監視しやすい」ってことないかな?
癒着防止と透明性の確保はいずれのケースでも必要でしょうが。


J2さんのところでは

不動産屋は物件の何%って仲介手数料を取ってリスクマネージメントをするのが仕事なんだと思うんですけど。(仲介者を立てずに契約するのが怖いからこそ仲介を不動産屋に依頼するわけですよね。)
bewaad氏の所で「ゼネコンの機能不全」についてコメントしましたが、不動産業も機能不全に陥ってる気がします。


J2さんに頂いた下の質問に答えておこう。
> 不動産仲介業者ってどの程度「建築」に精通しているんでしょうね。

今回の事件のレベルはド素人でも情報にアクセスできればわかる話で、巧妙に隠したという話は情報にアクセスした全員が口をつぐんだと言う事に尽きると思う。
つまり、専門家かどうかは「善意である事が許されない」という証拠程度のもので、技量とか専門性とかいうハイレベルの議論をしているわけではないのだ。
 だって、資材の発注する時に通常マンションに使うわけない細い鋼材を少数発注するわけだし、それって設計に基づく見積書とかに表現されて施主に表示されるわけだ。僕の理解では元請けも下請けも施主も悪意(少なくとも知らされていた)で実行したわけですよ。
その意味で、販売会社も施工会社も設計者も、いいわけにすらならん事を言っている。
 建築物や設計に瑕疵があり得るという事を知らない人は不動産業を営めないって資格制限があるにもかかわらず、「設計を信用していた」なんて事をのうのうと言っているわけで、これは不動産業界、建設業界、建築家全体の名誉のために由々しき事態でしょう。

 通常はマンションや宅地の開発には何重にもリスク回避の仕組みが含まれている。
その1、「ゼネコンが施工する」って事、これは工事ってものがリスキーなものだから、目的の実現に包括的に責任を負う人がいるって事だ。例えば一千万円規模のマンションの外壁塗装で施工業者が外国人労働者を入れて警察に捜査されてリース足場組んだまま現場保全されてごらんなさい、億単位で損失出せるから。ゼネコンが請け負った建設費の2割を留保して8割くらいで実際の作業は全て外注している事は有名だが、リスク管理と外注先の監視には技術も必要だし財政基盤も必要なのだ。(その意味で経営再建中のゼネコンというのはありえないと思うのだが)ちなみに外壁塗装では建設保険に入った中小事業者をユーザー側エージェントとして契約する方が安上がりだが、大規模工事だとゼネコンの方が安上がりである。(もっともゼネコンが何の保証にもなってない事も明らかになったみたいだが)
 当然ながら、ゼネコンに財政基盤を提供する銀行等はゼネコンの仕事は何か、今どういう仕事が入っているかという事まで知った上で金を貸すのが仕事なので、そこでもリスクマネージメントをしている。残念ながら今回の件では銀行は他の債権者より先に経営情報が入り先に資産を押さえられるという優位性を利用しただけで、公益性があまりない行動に出ているわけだが。(この銀行の主張に一片でも真実が含まれているのなら、国は即時に300億円の公的資金を回収するべきだ。)
 そして、販売者であり施主であるデベロッパー不動産会社だってリスク管理する。瑕疵担保を販売者が行わなければいけない事は法律で決まっているわけで、技術力で瑕疵を見抜き、適切に内部留保を積まなければ業として成り立たない。
 消費者から近い順に、不動産会社/住宅ローン貸し付け者、ゼネコン、ゼネコンに対するサービサーである銀行/設計者と全ての段階でリスクを小さくするための制度とその裏付けとしての報酬が存在する。
 だから、住宅は原価に対してどうしたって高くなっているものなのだ。

 今回の事件の背景にはユーザー側のエージェントのコストを切り詰めたローコスト住宅ってのがある。
 設計者は書類を偽造し、銀行(とその出資者の国)は社会の害悪である事業に出資して利益をあげ、建設会社は保つわけのない建築を作り、不動産会社は保つわけのない建築を保証付きで売った。
 そこでこれからどうしたら良いかを考える際に、ユーザーサイドと生産者サイドのエージェントの明示だけは絶対に確保して、今回のようにただの一人もユーザー側に立つエージェントがいないような物件ならその旨を明記しないとどんな制度があっても駄目なんだろうなと漠然と考えている。
 全く別業種の話だが、ある商社員から「商社の高い利益率はリスクマネージメントをする事で得られるもので、世の中の人がリスクを怖がらなくなったり、リスクそのものがなくなっちゃったら仕事がなくなるんだよ。」という話を聞いて納得した事を今回の件で思い出した。