環状八号線開通に思う

苦節何年になるのだろうか、帝都と呼ばれていた頃からの計画道路、環状八号線が全線開通した。環状七号線に続いて、東京で二番目の完成した環状道路*1となった事になる。
 戦災復興計画では、環状八号線は東京市街地の外縁近くを通り、交差する放射道路や鉄道との交点近く以外は制度的に担保された緑地(防空緑地を引き継いだ近郊緑地)の中を走行する郊外道路の計画であった。この道路によって東京市街地の迂回ルートが提供されることになる。環状七号線から環状八号線の間は市街地に向かってくさびを打つように緑地地帯が入り込み、空気の循環を促し、レクリエーションの場を提供し、地震災害や大火の時には火災を分断し避難場所として機能するはずだった。緑地帯をはさんで外側には衛星都市群がコンパクトな市街地を形成していく。そういう夢を描いて計画された計画道路環状八号線である。また高速自動車国道は市街地迂回ルートである環状八号線を起点にして全国に向けて放射状に伸びるように計画された。
 さて、確かに東京都都市計画道路環状八号線はその予定の位置をつないで全線が開通した。が、そのもたらす意味は計画とはかけ離れたものであるし、そもそも東京は美しい市街地構造なんて理念をとっくに放棄している。都市全体どころか道路網としての矛盾すらまともに解決していない。環状八号線の外側にだらだらと市街地は連続し、東京市街地全般はあいかわらず低層過密であり、建造物の不燃化が進んだとして緑地の確保の予定もない。*2環状八号線は慢性的に渋滞し、東京を環状に囲むカンパチ雲*3が頻繁に観測され、ヒートアイランドには屋上緑化で対応するつもりらしい。にもかかわらず、新たな都市像を提示する事もなく、見直される事もなく、計画にあるからという理由で環状八号線の工事は継続し、完成した。
 ただ道路が出来ればいいというものではない。計画道路環状八号線は完成しなかったし、目的を果たす事はなかったし、絶対に完成する事はないのだと個人的には思っている。

*1:環状一号線が完成しているとの説もあるが、あれは震災都市計画までに出来ていた道路をつないで名前をつけただけに見えるので環状線だと思ってない。

*2:不燃建造物はよく燃えるし、植樹帯より上に建物があるため植樹帯を持つ広幅員道路越しでもしばしば延焼するというのは阪神淡路の教訓でもある。

*3:コムスメと話をするときは「鰯雲って知ってる?」「じゃカンパチ雲ってどんなものだと思う?」と話を進め、「鰯雲の大きいの」を想像している顔を見て楽しむ。でも、カンパチ雲は環状八号線が連続する巨大な熱源となって局所的低気圧が起きて発生する雲で、鰯雲とはあまり関係ない。そんなものが発生するようになってから随分してからヒートアイランドだのなんだの騒いで研究費がいっぱい出ているのは驚きだ。ずっと前から取り組んでいる人にとっては東京に局地的異常気象が見られる事は常識だし、それを防ぐための公的な計画も過去にはちゃんと採用されていたのだから。研究が足りない事が問題なのでなく、人々が頑迷になった事が問題なのに研究費をつけてどうするんだろう。なんとかにつける薬はないのだよ。