村上ファンドの収益は不当で一般投資家に迷惑をかけて得た、のか?

日経新聞はあまり「自分の意見」を言わずに「誰かの意見」を紹介したりする事が多い。ずるいといえばずるいのだが、「投資家の新聞」である以上、余計な意見を差し挟めば「風説の流布」にあたる。賢明といえば賢明だ。(ただし、一連の報道では読売が一番正確だった気がする)
しかし、今朝は特別編集委員末村篤氏の署名で意見表明している。

村上ファンドは不正で市場を歪めていた。阪神の合併で500億円くらいあると思われる利益は従前の株主からちょろまかしたもので、利益は不当なものだ」と読めているのだが、どうも気になる。

犯罪行為があったかどうかは、最終的に裁判の行方を見るしかない。彼の行為が市場を歪めたか、利益は不当だったかの評価が投資家にとっては問題になる。
ニッポン放送についてはどうもライブドアを巻き込んじゃったのが村上氏だったようなので、利益を得た事よりもそちらが問題なのだろうと思った。しかし、ニッポン放送/フジテレビの問題というのは、是非はともかく「経営者が会社資産ごと株主から逃走する」という一連の過程であって、そもそもの原因が村上氏にある訳ではない気がする。また、一連の騒動に彼らが噛む事によって「一般投資家」が混乱したということもそれほどない気がする。持ち出せた会社資産が目減りしたってのはあるかもしれないけど、株主(=投資家)側に現金だけでも残ったって事。

次に、今回の阪急と阪神の合併だけど、村上氏の提案に当初からあった項目であった。また、村上氏の支配の及ばない阪急にとっても意味のある合併だから実現しようとしているものだ。また、930円という市場価格を下回る査定価格でのTOBで、一定の客観性を持っている。実際に経済的合理性がないのならば実現しないだろうし、経済的利益があるのならそれを引き出したのは村上氏の存在だ。
 資産価値930円の会社がその半値以下で取引されていたのだから、市場では一般投資家から「経営リスクで50%割引」程度に評価されていたのである。
 経営支配を通じて課題を解決すれば930円以上の価値を有する、これが村上ファンド阪急HDの一致した見方だと思う。そして、少数株を保有する一般投資家が多数いる状況でTOBをかけたのでは実現の見込みも、価格の設定も難しくなるのだ。
 そういう意味で、村上ファンドの活動は当人がなんと言おうと、経営と一般株主が自らでは解決できない課題を資本の側から是正する一連の動きの重要な一部だと考えている。*1
 阪神株を保有していた株主が株を手放した理由は様々だろう。しかし、株を見切って売る時でも、現金が必要で売る時でも「買い手がいる」という流動性はありがたい事である。村上ファンドは株価が安い時には隠れて流動性を提供していた。買い集めが明らかになり株価が上昇し始めてからは短期的であるが安定した株価上昇の期待をもたせ、株主は930円より高いか低いかはともかく、元の500円程度の価格より高い価格で納得して株を売った。
 私のようにウォッチしながら「今年は阪神強いから阪神株に手を出すのはやめよう」と思っていた人間は「しまった」、と思うくらいで、実害はない。実害がありそうなのは「阪神の経営問題は根深く、さらに株価は下がる」あるいは「村上ファンドによる買い集めが頓挫する」というのに賭けて空売りかました人たちだろうか.....
 ともあれ、村上ファンド阪神の株主に流動性と実資産価値に向けた価格上昇というものをもたらして報いた。阪急HDは買い取り株数の上限を設けていないので、長期保有者は納得して阪神株を売って阪急株を買う事も(買わない事も)出来るだろう。*2
 というわけで、「もうけそこねた」人はいるかもしれないけれど、利益を独占した訳でもなんでもないし、基本的にハッピーエンドだと思っているので日経の意見には賛同しかねるなぁ。
 

*1:こういう状況では「第三者割り当て増資」「新株引き受け券の付与」などの手法によって株主に還元せずに経営者が会社ごと株主から逃げ出してしまうリスクが非常に高い気がする。

*2:時価評価しないで阪神株を保有していた企業が含み損/含み益を表にださなければならなくなるってのがある、あと課税の発生か....でもそれって保護されるべき話じゃないよね、たぶん。