借地権について

特にトラックバックがあったわけではないのだけどこのブログで書いた事について言及があったようなので、言い訳めいた事でも書いておきます。
山梨県、県有地を富士急に格安賃貸 随意契約で80年間」
(http://tactac.blog.drecom.jp/archive/1973)

■法律上はそうなのかもしれないし、経済的な貢献度とかをかんがえれば、妥当な契約関係といえるのだろうが、「明治末の水害に対して救援として皇室から恩賜された山林を活用して地域経済をもり立てるために県がリゾート開発を企画した」って経緯は、「単純明快」全然問題なしなのか? ■だってさ。「皇室から恩賜された山林」ってのは、一体だれのものだったわけ? 京の御所のおすまいだったはずの天子さまたちが、甲斐の国の山中湖湖畔に巨大な地所をおもちだったなんて、きいたことないぞ。■要は、国有林だの皇室財産なんてのは、維新期に幕府・各藩の領地と、列島住民が私有地ないし明確な共有地などと主張しれきなかったものを、そっくりいただいたものの結果でしょうが(笑)。■「恩賜」とか「下賜」とか、前時代的な身分用語は、そろそろ「卒業」しないかい?

そうですね。明治維新で幕府についた藩の山林は明らかな私有財産になってたもの以外は、村落の共有林みたいなのまで没収されて皇室財産になった。国有林野が幕府方についた地域に偏って存在してるのはその名残。地元に返還された山梨県はレアケースだと思う。だから明治維新を生きた山梨県民のメンタリティに従えば「水害を口実にして取り返した」土地ですね。
 でも、ここで問題になるのは契約当時の山梨県のメンタリティでしょ。内務省の一機関であり陛下の官僚である知事とその部下たちの判断が当時の基準に照らして妥当だったのかが問題なんじゃないの?当時の官僚は恩賜とか言ったと思うよ。

■ともかく、後進国開発独裁の一種として、官営工場をつくった経緯は、ある程度しかたがないが、旧財閥系に破格の条件ではらいさげられたのは、西南戦争後の財政難なんて理由で合理化されはなるまい。■はらいさげられたさきは、あきらか一部特定の政商たちだったわけで、そこの利権がなかったはずがない。

山中湖村の山林ってさ、ものすごく成長速度遅いんだよ。「この木、何年育ててると思う?」って聞かれて平地の感覚で答えると、だいたい3倍くらい。低開発県としてなんとか役立てなくちゃいけないと思っても山林じゃ一回切っておしまいっすね。それなりの事情があるんじゃないですか?利権なしの投資話に乗る馬鹿はいませんがな。

■それと、うえに引用したコメントで「そもそも目的に沿って合理的な賃料設定であれば合法なんじゃないか?そうでなければ公営住宅事業なんてありえないだろう」って箇所は意味不明。■リゾート地は、ハイリスクである一方、ハイリターンもみこめる。「公営住宅事業」ってのは、まさか 公的機関がカネもうけするわけじゃないよね。■住宅地を開発するとして、そこが公的な性格で社会政策事業の一環として公的機関がしきるのか、不動産関連会社が営利目的でおこなうのは、全然別のはなし。ごっちゃにするのは、まずかろう。

国有でも県有でも山林って営利事業資産じゃなかったっけ?
ま、いいか。
借地借家法でリスクとリターンの主導権を握るのは借りる側です。だから公的機関が仕切る権利はない。古い制度はよく知らないけど、最初の借地契約の時点か、借地借家法の成立で、富士急が「地上権」を得て土地利用の権利を取得してるわけね。
旧法の借地権って、ほとんど「無期限の分割払いで土地を買った」のに等しい権利を与えたからねぇ。だから営利事業だろうとなんだろうと、もう山梨県側がどうこう言えない状態になってるわけだ。

■それはともかく、特定の業者に後日かなりの収益があがるかもしれない資源を格安で提供したとすれば、それは、ユチャクといわれてもしかたがない。■企業城下町ならぬ「企業城下県」で、富士急になにもいえない力関係が成立しているのだとしたら、ますます問題というほかなかろう。■民主主義ってのは、過程の透明性・平等性という、てつづきの正当性・正統性によってはじめて実質をもつものであって、柔軟であるべき部分はあっても、基本は杓子定規でないといけない。■もし、キャッシュもきえた『朝日』の記事がなにかの圧力の結果だったりしたら、大問題だよね。まさか「富士急がリスクをひろって、刻苦勉励・創意工夫で一大ブランドを形成し、集客力・集金力を維持してきた功にむくいて、過去のことは、いっさいふれないようにしよう」といった「合意」がウラでなされているとしたら、それこそオンブズマンの監視対象だとおもうがね。

いや、だからそこがよおわからん所。
儲かろうと儲かるまいとたとえ地方公共団体だろうと地主は口出しできませんよ。妥当な値段で買い取ってくれって言えるくらいでしょ。そして借りてる方は借り続ける権利と買わない権利がある。
具体例では東京都が貸してた浅草六区は安値で買い取られたとか、芝公園の敷地に東京タワーが建ったとかさ。戦前の自治体の借地契約の結果なんていっぱいあるわけじゃない。巨人軍のグラウンドなんて河川敷だから法定国有地で買い取りも請求できなかったけど借り手がいらなくなったので返ってきた。
で、元記事見ればわかるけれど、

土地の賃貸料は年間約2億3600万円で、1平方メートルあたり年約79円。富士急は別荘用地として、同175円ほどで一般の顧客に転貸している。

道路つけたり管理設備とかで1割ほどの土地が転貸不能として、転貸した地代のだいたい半額が県に入ってるわけでしょ。
不動産屋が鑑定する時に底地権(地主の権利)と地上権(借りる側の権利)の価値ってよくって5:5で判定するわけ。土地によっては4:6で判断されてもしょうがないんだけど。で、半分の権利を持ってる人が半分のアガリをとってるからこの部分は全く不思議じゃない。

 基本的には富士急が貸す値段は高ければ高いほど富士急は儲かる(県も儲かる)よね。でもほとんどの区画は旧法の賃借権で転貸されてるだろうから別荘が建ってる限りそうそう値上げを要求する事もできない。値上げは後手後手に回るはず。旧法にもとづく借地って儲からないからあまりに利用されなくて改正されたんだしね。

 オンブズマンが監視するべきなのは富士急が「転貸料を低く抑えて管理料を値上げするような形で利益を吸い取ってないか」とかであって、事業内容に口出しできない底地所有者にどうこういってなんとかなる話じゃないとおもうんだけど。

過去の事例に沿って常識的な線で考えるとこうなるというだけで、もし富士急が地上権持ってなかったりしたら話はひっくり返るけどね。

借地ってもんがわかってて、それでも突っ込み入れるんなら朝日新聞としてはむしろ読売巨人軍グラウンドが1955年から1998年にいらなくなるまで国から借地されてた事に突っ込むべきなのでは?とも思うが。


翌日追記:
営利事業ってのを「ま、いいか」で置いとくのもなんなので追記します。
浅草の6区とか、現在私有地の部分はもともと公有地、それも公園敷地です。で、浅草公園の経営を考えると、誰でも遊べる公園部分だけでは管理する行政は赤字ですよね。ですから敷地の一部を借地にして提供して収支のバランスをとっていたわけです。天王寺公園でのルナパークと新世界などもわかりやすい例でしょうか。*1芝公園の旧公園区域にもそういうのはあるし、公園と一体化した形では上野公園の中に洋食屋があったりするでしょ。
 で、戦後の占領政策では公共事業は税金でやりなさいという大原則になって、これらの借地は清算する事になり、払い下げられました。
 富士急別荘地が払い下げにならなかったのはおそらく収益資産である山林であって、公共事業用地でなかった事が理由だったのではないかと想像できます。

*1:wikipediaは間違った記事をずっと載せてますが。http://www.oml.city.osaka.jp/net/osaka/osaka_faq/59faq.htmlの方が信頼できるでしょう。それでもこっちは余った土地を貸した事になってて当時の内務省が収支バランスを考えて借地と公園を配置していた事なんて触れてませんが。