エレベーター不具合の個別事象の分析とリスク評価

以前のエントリの補足
http://d.hatena.ne.jp/kumakuma1967/20060613#p3

ここでは
http://news.goo.ne.jp/news/yomiuri/shakai/20060613/20060613i111-yol.html
の報道は正確に事実を反映していると仮定して考える。

起きた事を時系列順に並べると、
1)エレベーターが最上階を行き過ぎた
2)最上階フロアの50cm上でエレベーターが停止した
3)エレベーターの扉が開かなかった
4)エレベーターから自力で乗客が脱出した
の順で起きた事になる。



原因の推定を出来損ないのない頭で加えると、

1)エレベーターが最上階を行き過ぎた
制御系の異常または駆動系の異常

2)エレベーターが停止した
建築基準法施行令 第129条の9-八.が定める「かご又はつり合おもりが昇降機の底部に衝突しそうになった場合においてこれに衝突しないうちにかごの昇降を自動的に制御し、及び制止する装置」のうち最上階減速スイッチが動作し、かごを減速、停止させた。

3)エレベーターの扉が開かなかった
建築基準法施行令 第129条の9-二.が定める「昇降路の出入り口の戸は、かごがその戸の位置に停止していない場合においては、かぎを用いなければ外から開くことのできない装置」が動作し、乗客の安全確保のため自動的には扉が開かない状態になった。

4)エレベーターから自力で乗客が脱出した
乗客が安全に退避できる状況の確認がなされない状態であるにもかかわらず、安全装置を乗客自ら解除又は無効化してかごから外に出た。



ここでそれぞれの事象の問題の重要度を
A:乗客及の身体的な被害がありうる重要な問題で救援を困難にする要素のあるもの
B:乗客の身体的な被害がありうる重要な問題
C:乗客に不利益を及ぼすが、安全装置のカバーにより身体的被害に及ばない問題
D:乗客に不利益を及ぼすが、安全装置の動作にまで至らない問題
E:無問題
に分け、電車の運行になぞらえて考えるとそれぞれのリスクは、

1)エレベーターが最上階を行き過ぎた
電車にたとえると「オーバーランした。」
乗客に多大な不利益を及ぼす可能性が高い。
重要度:C

2)最上階フロアの50cm上でエレベーターが停止した
電車にたとえると「ATCが列車を自動停止させた。」
重要度:E

3)エレベーターの扉が開かなかった
電車にたとえると「ホームを行き過ぎていたので乗務員がドアを開けなかった。」
重要度:E

4)エレベーターから自力で乗客が脱出した
電車にたとえると「乗客が乗務員室に入ってドアを操作し線路に立ち入った」
     または「乗客が扉を壊し、線路に立ち入った」
重要度:A

となって「エレベーターの安全確保」という公益上の重要度は報道での取り扱いと全く違う。

 尼崎の脱線事故を経た上で、このような報道が行われているという事は、マスコミは「公益を無視して、利益を向上させる目的ないしは他者を侮蔑する満足感を得るために扇動的な記事を書いて社会不安を引き起こしている」と疑われてもしょうがないのではないだろうか。*1

*1:特定の記事に依ると、その記事が悪いという印象を与えてしまうが、印象を操作しようという意図は見えるものの少なくとも事実を報道しようという良心があるのでこのような考察が可能になる。その意味でこの記事に関してはある程度の公益性があるとも言える。多くのマスコミの普通の記事はここまで事実を忠実に伝えたりはしていない。だから、この記事を書いた記者を私は高く評価している。