コミュニケーションのためのボキャブラリの不足

うーん、このところ「パイの大きさ=GNPはもういいから」とか、「スルー力に相当する英語は難しい」なんてのを遅ればせながら考えてみた。
 結局デフレは「生産される付加価値(パイ)の大きさは変わらない、あるいは大きくなっているのに、それを貨幣を道具にして切り分ける市場の大きさ(名目GDP)が縮小しているという現象を伴う症候群」とでも定義できる経済の病気と考えてみても良さそうだ。ちゃんと考えないとデフレって単語の意味がぐらぐらするほど曖昧な理解しかしていなかったって事だ。
 「スルー力に相当する英語は難しい」ってのは404 Blog Not Foundで紹介*1されていた物で、

この「スルー力」という言葉、なまじ英語に慣れていると絶対思い浮かばない言葉だと思う。

スルー力は「いやなブログ」*2に下のように定義されている。

ものごとをやり過ごしたり見て見なかったことにしたりすることを「スルーする」と呼ぶようになって久しい今日この頃ですが、このたび「スルー力」、すなわち、スルーする力...

うーん、たとえば、大学受験の物理で多用される「空気抵抗は無視できるものとせよ」というのは「こんな実験装置では空気抵抗があるのは常識的に考えて当たり前だが今は別の事を考えて欲しいのでやりすごしといてくれ」という意味で、英語では簡単に"Regard air-resistance as negligible."と表現される。
 実験物理学では、目的とするありふれた現象を理論的に説明するのに、理論に関係しない部分をいかにnegligibleなレベルに押さえ込むのかが問題で、そのために高価な素材でハーフミラーを作ってミクロン単位で調整したりする。理論物理学は現象の大部分を無視して本質的な何かをつかむのが仕事である。「ものごとをやり過ごしたり見て見なかったことにしたりすること」は物理学の根幹を支える重要な知性の一部だ。そのような知性と流行ものに鈍感で気を使わない事などを一緒くたにした単語にnegligence*3というのがある。
 わたしには「スルー力」とnegligenceの違いはいまだによくわからない。その一方で、negligibleに相当する適当な日本語がなくて物理屋さんは「ねぐれる」という単語を使ってる。

結局、ブログでもマスコミでも、人というのはコミュニケーションに必要なボキャブラリーを持っていることは少ないような、自分がすごく孤独になったような、そんな気持ち。

*1:http://blog.livedoor.jp/dankogai/archives/50694139.html

*2:http://0xcc.net/blog/archives/000133.html

*3:法律用語だと注意義務違反/怠慢という意味になっちゃうという突っ込みがないかな?と思ったけどないようなので自分で突っ込んどく