首相官邸WEBサイト+メルマガで7億2千万はありうるか?

注意!:このエントリには基礎となる事実に事実誤認があります。
音極道茶室さんのネタ*1に反応してみる。

過剰広報予算:小泉メルマガ、官邸HPに年間7億円超

もし自分が意見を求められたとしたらやはり「有り得ない」と答えると思う。
少なくとも、都知事の出張宿泊費が26万だったとかいうショボイ金額のツッコミよりは意義があるんじゃないか?

しかし、この額は妥当とR30氏が主張している。

[R30]: コンテンツ品質とIT活用のコストはタダではありません*2

これはWEB屋の端くれとして検証せずにはいられない。

http://www.atmarkit.co.jp/news/200611/29/ipa.html
「人月」がソフトウェア業界の生産性を落としている、という話に対する議論で、たとえ、技術者の給与が月額30万程度でも業種によっては「見積書上」150万円や400万円の売り上げがあったりしたという話をしたら、ものすごく引かれた。

話の仕方は悪かったと思うけれど、「市場」というのはそういうもので、人の10倍の速度で壁にペンキを塗れる職人がいたとしても、普通の10倍の面積を1人・日でやりますという見積書をもって仕事をとりにくる建設会社はタコです。
 仮にその職人が風邪をひいて休んで足場の撤去が3日のびたらすごい損害額だよ。いざという時に儲けなしで職人の数2倍あててなんとかなるレベルの5人・日までは引けるかも知れないけれど、まともにリスクを引き受ける覚悟があるなら、作業全体でどれだけのリスクがあるかちゃんと見て、積み上げ部分は10人日のまま残して、総額で値引きできる分を引くのが正しい。
 仮に一回うまくいって、施主がもう一度ペンキを塗ろうと思った時にその職人が引退してたら、いきなり見積額10倍ですよ。そんなことしちゃいかんのです。
 業界全体がスキルアップして効率化していくのだったらだんだん塗れる面積が大きくなるのが正しいかもしれないけれど、その場合の見積にはスキルアップイノベーションのコストがちゃんと反映されてないといけない。
 そういうところで「一日で塗れるじゃないか」なんてコストダウンがまかり通るから今は不況なんだけどね。*3

 「小泉メルマガ、官邸HP」って内閣メンバーの政策をわかりやすく一般におしらせする広告だよね。有効な広告をうつにはマーケティングし、ポリシーを作り、守らせ、内容を管理し、効果的な広告になるように、制作だけじゃなくてさまざまな作業が必要になってくる。官僚は役に立たない。彼らはA層の人間だ。小泉政権の支持率と票を支えるのはB層の人間なのだ。B層にうまくプロパガンダする技術を持ったプロフェッショナルのA層が求められているのだ。
 で、広告代理店に仕事をさせてコンテンツを作って配布した。広告代理店は基本的にCM一本で数千万から一億円って市場で仕事をしている奴らだ。代替性のあるものを市場から調達しようとしたら、市場価格で手に入れるのは妥当なわけだけれど、「小泉メルマガ、官邸HP」が生んだ効果*4見れば、年間7億円超ならむしろ安い有能な職人集団かも知れない。*5

 タウンミーティングも官邸webもメルマガも、問題は国費を7億円もかけて政府がそういう仕事*6をするべきかって事で、コスト積み上げ法で7億円の内訳を精査する事じゃないんだと思うんだけど?(会社で言うと赤字でひいひい言って給料もろくに払えない*7のに株主総会対策に何億円もかけるような....)


追記:
 コストを積み上げてもそれは可能な最低価格(蕎麦猪口の500円)にすぎない。市場価格は消費者の利得とコストの間で決まる。タレントが生計を維持できる最低賃金で働くのか?むしろそのタレントのもたらす利得の配分を求める形でしか働かないだろう。少なくとも広告業界は最低価格で動くような市場じゃない。
 別の言い方をすれば、7億円もの支出が正当であるような「利得」がクライアントである官邸サイドにあったって事。利得が公共の利益であるとして税金から出すべき物であったとしても、政治的な物であれば政府/官邸が支出すべき物ではなく、政治資金から出すべきだろう。私にとってはそっちの方が問題だ。
追記2:
補足資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/ejapan2004/040615betten.html
e-Gov本体は総務省所管で、官邸以外から出る白書や審議会資料は各省庁にあるみたいだから、官邸は官邸の出す文書以外の白書類とかには関係ないみたいね。官報の編集/発行は独立行政法人国立印刷局ですでにネット配信してる*8

追記3:事実誤認
ネタ元の音極道茶室さんのコメント欄で紹介されていた落札者等の公示「内閣官房LANの保守 他」
http://www.e-procurement-cao.jp/choutatsujouhou/passed/4_k03_20050610r.html

(2)インターネット接続に係る賃貸借及び運用支援 一式 (7)37,278,780円 (8)17.3.11 (9)d「互換性」

(2)情報セキュリティ業務支援システム運用 一式 (7)15,006,600円 (8)17.3.11 (9)d「互換性」

(2)Webシステムサービス 一式 (7)32,093,838円 (8)17.3.11(9)d「互換性」

(2)官邸ホームページのサーバハウジング等及び運用支援 一式 (7)177,036,402円  (8)17.3.11 (9)d「互換性」

(2)官邸ホームページの総合的セキュリティ監査 一式 (7)25,011,000円 (8)17.3.11 (9)d「互換性」

(2)メールマガジンシステムの運用管理 一式 (7)125,445,600円 (8)17.3.11 (9) b「排他的権利の保護」

別に秘匿しなくても良いと思うけど一部省略してある。
全部随意契約で、目立っているのはサーバハウジング等1.77億、メールマガジンシステムの運用管理1.25億の約3億円。この基礎的な部分は思ってたより大きかった。
元の新聞記事*9にあるような制作的な契約は見当たらないし、「民間のHP制作会社」も見当たらず大手プロバイダによるサービス。元ネタそれぞれの信憑性はともかく、自分は事実誤認でブログ書いてたと思う。

*1:http://www.virtual-pop.com/tearoom/archives/000177.html

*2:http://shinta.tea-nifty.com/nikki/2006/12/post_13c8.html

*3:ろくにイノベーションもないのに、そういう仕事の単価はどんどん下がってます。給料削ってるから

*4:300議席超の圧倒的独占シェアの獲得の一端

*5:あるいは政府に近づく事によってもっとおいしい仕事ができるというインセンティブによるダンピングがあったのかもしれない。

*6:集票目的のプロパガンダなど

*7:http://bewaad.com/20061210.html#p01

*8:http://kanpou.npb.go.jp/

*9:http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20061209k0000m010098000c.html