デフレは終わったのか?

かなりいいかげんに感想をかきちらしてるだけなのであまり信頼しないでほしい。
町村先生が紹介している日経の論文(28日付け経済教室)を僕も読んだ。資産価格の急上昇の危険が高まっているのでそろそろ量的緩和をやめてはどうかという記事だ。
 その根底にあるのは何かというと、家計に積み上がった現金が大きく、さらに肥大し続けているということにあるという論である。金利がほとんどつかず、預金保証もなくなっても現金が家計に積み上がって消費にも投融資にも廻ってない、これが投資に廻ると資産価格が異常に高騰する可能性があるって危惧のようだ。
 前提には「異常なゼロ金利量的緩和」の元でCPIが上昇に転じたので、実質的なマイナス金利が発生したという認識があるようだ。

  • 実質的マイナス金利は発生しているか

まずCPIがプラスに転じたと評価して良いかどうかだが、個人的には家計において実質的なマイナス金利が発生するような物価上昇はまだ観測されてないと考えている。
何度か触れている通り持ち家の帰属家賃の効果が大きすぎるという点が大きい。
 ダウンロードした物価を見ていると、帰属家賃を除く総合は−1%(前年同月比)であり、総合ではー0.8%、生鮮食料品を除く総合は0.1、持ち家の帰属家賃と生鮮食品を除く総合は0.0という数字をどう解釈するかだが、まず総合CPIを基準として考えると、総合CPIを帰属家賃が0.2%押し上げている。生鮮食料品が0.9%引き下げているってところだ。
 生鮮食品(生の魚介、生の野菜、生の果物)が除外される理由は天候その他の影響が大きく、経済の構造に結びつかないからであるらしい。値下がりしている品目を見ていくと、生鮮野菜の価格低下が著しいのが効いているようだ。上げている食料項目は肉類、調理食品、外食なので食の行動変化で生鮮野菜の需要が弱くなっているのかもしれない。生鮮食料品の下落が順調な天候による豊作や生活習慣の問題ではなく、貧富の差が拡大した結果エンゲル係数の高い世帯の購買力の低下が起きているのならば、農業についてはさらなる不景気に要注意という気がする。
 さて、もう一方の家賃を見よう。家賃は前年同月比で8月以降上昇に転じた。ところが持ち家の帰属家賃を除く通常の家賃は一貫して下落を続けている。
 持ち家の帰属家賃は持ち家は本人に貸家しているとして仮想的に計算する家賃だが、この仮想的家賃がどんどん値上がりして家賃全体を引き上げているので実体はまったくない。
 そして、全体を見回して上がっている項目はだんぜん「電気、ガス以外の光熱費」(主に灯油/ガソリン?、前年同月比22.0)、つまり原油価格が上がった価格転嫁の成果である。なんら国内の内部的な要因で発生した現象ではなさそうだ。また、あれほどの原油価格上昇にも関わらず、物価全体が上昇するほどの力がないというのは実に驚くべき事だと思う。1%以上の値上がりを記録しているのはガス(1.3)、下着(1.2)、自動車関係費(2.4)、調理食品(1.1)、雑費の身の回り用品(1.8)とその他(5.1)など、他は国策で計画的に値上げしている授業料が上昇(0.7)してるとか、比較的小粒の上昇にとどまっているようだ。
 というわけで、通常の消費生活に関する限り豊作不作や需要変化の影響があるとはいえ、消費生活にかかわる物価は下がっているので、ゼロ金利でも家計では実質マイナス金利は発生していない。エンゲル係数の低い家計では実質マイナス金利に転換しているのかもしれないと一瞬思ったけど、そういう家が灯油をがばがば使っているとも思えないしね。

  • 資産インフレはありうるか?

 資本によって生産性が上がり経済が活発になっていくのであれば、そのような資本価格は高く評価されて当然である。その意味で、現在の資本の評価は安すぎる気もしないでもない。物価下落に頭を抑えられて資本の効率は十分高いとは言えないものの、労働強化と賃金の抑制などによって企業の労働分配率が急速に低下している。すなわち、投資活動が低調であるにもかかわらず企業部門では資本への分配率が上昇しているのである。
 投資家は設備投資や人材育成をしないで濡れ手で粟の収益が上がるうまみを覚えてしまった。したがって、資本/資産価格の急上昇はありうるだろう。ただ、現在は景気回復基調にあること、勤労者の供給は急速に細るのが中期的に確定している事の2点から、中長期的に資本/資産の相対的価値は下がるのではないかと思う。人を引き抜ける企業と、流出する企業の差は不況期にもはっきりしていたし、ここへきてさらに広がりつつある気がする。

  • どうして家計に現金が積み上がるか

 そりゃ現役世代は社会保障は切り捨てるし、痛みを共有しろって政策が徹底しているのだから備えなきゃやられちゃう気がするからでしょう。一方で引退世代は現役世代からの所得移転で使い道のない資金を調達して、現に使い道がないってことじゃないんでしょうか。

  • で、結論は?

不景気の時代にリスクをとるのが嫌で銀行から資金を引き上げてタンスに入れた人はたぶん単なるケチである。そして、そういう人はたくさんいるのだ。一方で、リスクをとって投資に回して雇用の拡大や維持に回した人の資産が一時的に急騰するのは正当な気がする。だとすると、現在の株価上昇などは許容範囲だろう。しかし塩漬け不良資産の価額が急上昇するようなのは困るのかもしれない。全般的な地価上昇などが起きないようコントロールの方法を検討するべき時期なのかもしれない。
 というわけで、議論の前提がかみ合ってないようだ。私は資本/資産価格急上昇の懸念は筆者と共有できるかもしれないけれど、その原因を日銀の量的緩和と政府のどちらに求めるかと言われたら、政府の方に求めたいなぁ。異常な金利政策を解除できる条件は政権交代かもしれないと思った。日銀はサプライズを引き起こす能力を維持するために「量的緩和やめるかも」とか、「国債買うかも/売るかも」とか言い続けないといけない立場だろうが、現時点の物価(外的要因で上昇してる部分もあるが、全体的に波及しておらず下落傾向継続中)やマイナス金利(仮想的項目を除去して初めてマイナス金利になる計算だが、それは実質マイナス金利と呼べるのか?)を量的緩和終了の言い訳にするのはちょっと苦しいかもしれないと思う。
これ以上継続すると機関投資家や銀行はじめ金融機関のモラルが崩壊するからとかのほうがまだわかる。
「安心してお金を使えない社会」みたいなものの解決がない限り家計に積み上がった資金が資産価格を急上昇させる危険はつきまとい続けると思うが、「改革」によって固着した不安感と消費税上げへの恐怖感は日銀だけで対応できる物でもない気がする。

  • 疑問点

右肩上がりの時代に育ってきた世代としては預金金利が物価上昇を下回っているのは普通のことで、バブル末期などの物価上昇を上回る金利ってちょっと異常な気がするのだけど、育った時代の常識で考えちゃう自分の限界かも。
#まだ書きたすかも。書き足し中。