少子化が思ったより進行していなかった件について

あちこちで報じられているので網羅しませんけど出生率が1.25で過去最低だったそうです。


で、担当大臣は結婚率があがったとか、訳の分かんない「明るい兆し」を主張してて苦笑を禁じ得ません。まさに成果主義の弊害と言うかなんと言うか....

個人的にはもっと低い出生率になるかと思っていたので、今年コドモが産まれた親の皆さんには「でかした!」と言いたい気持ちなんですが。

なぜもっと低い出生率になると思っていたのかというと、いいかげんな思考実験*1です。
コドモを持てる経済力と肉体両方を備えていないとなかなかコドモは持てません。こんな風に計算をしてみるのは「コドモをもちたい、もちたくないという意志と別に、両方を備えている人の数というのがどんどん減ってる」という事をあらためて確認する作業です。

意志に関わる問題として、コドモをもつ事で減る収入というのが槍玉に挙がります。
平成17年版「国民生活白書」での数字で、

  • 育児休職の機会損失      2千万円/コドモ一人
  • 復職できず転職だと機会損失  5千万円
  • パートになると機会損失   22千万円
  • 子育てが忙しくてパートなし 27千万円

なんて計算をしておきます。でも意志についてはほったらかします。

次に子育て費用を見ましょう

子育て費用=コドモに必要で支出した額の合計

として計算する方式では、

a=子育て費用=3000万円/コドモ一人=a

くらいのようです。
一方で「国民生活白書」式に

子育て費用=子供がいる世帯の支出−DINKS世帯の支出

として試算すると

b=子育て費用=1300万円/コドモ一人

になるそうです。

つまり、親はコドモ一人当たり

a-b=1700万円

の支出抑制をしてコドモを育てるわけですね。コドモ二人、養育期間20年として毎年170万円の支出抑制が必要なわけです。金融機関では、年間所得の40%を超える返済は債務不履行の可能性が高く貸し出せないとしているので、そんくらいかな、といい加減に考えて最低必要所得はコドモ2人で425万円となります。


一方で親になれそうな世代の収入を見ると、

20ー24歳の給与所得者平均給与:250万円
25ー29           :344万円
30ー34           :407万円
35−39           :468万円

平均所得以上の所得を得ている勤労者の割合:約25%

つーわけで専業主婦世帯では35歳超えた人のうち25%くらいがコドモ2人いても破産しないくらいの給与水準です。

共働き基準にすると

平均所得以上の所得を得ている共働き夫婦の割合.....機会損失考えたらかなり低そうです。そこで機会損失を足したものを支出にして計算しちゃいます。

コドモ一人当たり必要支出=2000万円+1700万円

年間185万円、必要所得462万円。金利的なもの足さなくてこんだけかかるわけだ。(追記:しまった、計算違い。一人分だよ、でも実感にはこっちの方があっているので残しておく。いい加減な計算だし。)

20ー24歳の共働き平均給与  :500万円
25ー29           :688万円
30ー34           :814万円
35−39           :936万円

いや、平均はでるけど平均所得もらえる夫婦の割合はどのくらいになるのかな..20-30%くらいか。これは想像です。

つーわけでやはり35歳超えると25%くらいの人はコドモ二人でも破産しないで養っていけそうですね。 しかしこれは復職がうまくいくというバクチに勝った場合の計算です。

え、じゃあ出産年齢の大半の人は無理せずコドモを育てられる状況にないの?ってことですが、その通りです。
無理せずどころか、予定外の何かがあれば簡単に破綻するレベルでも35歳で25%くらいってとこでしょう。さらに若い世代の年収はデフレで落ち込む一方、子育て費用はデフレでも上がり続けています。
だからこそ今年コドモが産まれた親の皆さんには「でかした!」と言いたい気持ちなんです。

*2


担当大臣には「この状況で1.25も出生率があるのなら神に感謝すべき」とでも思ってほしいです。
また、「少子化は長期的に経済に影響、内閣がしっかり方針を」なんて言っている「お大臣」もいるようですが、原因と結果の捉え方が逆じゃないか?と言ってやりたいです。

追記:

  • 「平均所得以上をもらえる人は少数の恵まれた人たちである」、というのはものすごく当たり前なんですが、厚生労働省という役所は「平均所得、コドモ二人世帯」をモデル世帯にする事が多いです。そういうのをモデルにしてこの結果が出ているとしたら、期待以上の成果は出ていると言えます。何の救いにもなりませんが。
  • 児童手当の拡充がされましたが、ケタを間違えてるのか、年間10万とかでは起きている事に対して「イタチの最後っ屁」程度の効果しか期待できない気がしています。
  • 「私の生活実感」では、共働きだろうと、専業主婦世帯だろうと所得の高い方の年間給与が600万と所得が改善する実感がないと、コドモ二人を育てる自信は持てないのではないかと思います。
  • かなりの危険を冒して期待以上の数の世帯がコドモを持っているという結論になりましたが、パラサイト等によってリスクを祖父母世代と共有することでなんとかできる事も多い、というか「私の生活実感」ではそうしないとやっていけない世帯が多いです。(住宅の取得と同じ状況ですね。)
  • それでも無謀にもコドモを持ってしまったという世帯も多いかと思います。それは期待以上の速度で状況が悪化してしまった、という事もあるのじゃないかと思います。コドモが産まれるというあたりまえのライフイベントを受け止められないような所得分配は早急に解消されるべきで、金利規制なんかしてる場合じゃないような気がしますね。

*1:思考実験には行政府で見られる給与統計などの他、豊田真弓さんのallaboutの記事を参考にしました。

*2:追記:所得の方は平均所得は少数派、という立場、支出の方は「平均」というのがトラップになっている事を書いておきます。収入の多い人の方が支出も多いって事は事実ですから。でも、所得に対してどのようなカーブを描いているのか分からなかったので捨象しているわけです。