私の感じている危険

エレベーター事故に関しては「重大なメンテナンスのミス」があったがどうか、「明らかな欠陥」があったかどうか、私は知る事のできる立場にはいない。だから、欠陥エレベーターと断定してはいないし、メンテナンスに致命的なミスがあったと断定してもいない。もっと意図的ないたずらや犯罪である可能性だってあってもいい。
 しかし、あきらかに「これは怖いな」と思う事はいくつかある。
1)エレベーターの点検体制について
エレベータ−は有資格者が点検することが法的に義務づけられていて、メーカー系か独立系の管理会社に依頼して管理契約の中で点検が行われる。しかし、独立系管理会社にはメンテナンスに必要な情報がなく、管理できないそうだ。例えば耐震偽装事件では意匠系建築家が構造系建築家に構造計算を依頼して騙されたわけだけれど、意匠系建築家は構造計算の有資格者だけれど自己に構造計算をする能力がない事を知っているから外注するわけだ。
 独立系点検業者は自己に「点検、管理する能力がない」事を知りながら「管理費を貰って点検整備したことにしていた」ということだ。それでは耐震偽装事件の確認審査機関と同じく、仕事をやったように見せかけて仕事をしていないって事だろう。できない部分についてはメーカーに外注せざるを得ないのなら、外注費込みで見積もりとるしかないじゃないか。仮にメーカーが意地悪で必要なデータを出さないせいだとしても「点検できません」と言うのが有資格専門家の最低限守らなきゃいけない線なんじゃないのだろうか?
もちろん簡単な事ではないと思うが。
(追記)
もしあなたが「免許証上クラッチ付きマニュアル車を運転できるドライバーで、免許取得後オートマチック車しか運転してこなかった」として、会社から「マニュアルの商用4tトラックを運転しろ」と言われた時に断るべきか「運転したことにする」べきかって話。トラックに「マニュアル車の運転方法教本」がついているかどうかはあまり関係ない気がする。

2)エレベーターの使用停止命令を出せるのは誰?
公的な立場にある者が「明らかに欠陥だ」と記者発表までして公に明言したのだから、東京都知事は欠陥の存在を確信しているのだろう。私何ぞでは触れられない最新の情報が、彼の所にはあるのかもしれない。そこまでの確信があるのならば何故シンドラー社製のエレベータの使用停止を命じないのか?製品の欠陥でこのような事故が起き、再発が懸念されるのならば、耐震偽装事件で使用停止命令が出されたマンションなどよりはるかに危険だ。
 もしも十分な証拠もなく、都民の安全を確保する目的もなくそんな事言ってるとしたら、知事の地位をつかってリンチをしてる事になる。リンチが好きな人は他にもたくさんいるようだが。

(追記)
3)エレベーターへの過度の信頼に基づく無限定な大型化とローコスト化の同時進行
自宅のエレベータの積載量は950kgで、カウンターウェイトとかごの重量差はだいたい500kgである。
 これに対し事故機は積載量2800kg、小さなトラックでも乗せられる運搬能力だ。カウンターウェイトとかごの重量差は1.4tとなり、ブレーキへの負荷やモータートルク要求は高い。暴走の影響も救助の際の二次災害の危険も大きい。しかも超高層住宅の利用者の要求を満たすために高速で動かなくてはならない。「超高層建築は普通の建築ではない。普通にやっていたのでは事故が起こる。」という認識が管理会社や所有者になさそうに見えるのは何となく感じている恐怖の源の一つだ。
 住戸数に対して必要な運搬能力を維持しながら、コストを引き下げるために小型機を多数配置するという対策をとるのでなく、一般の共同住宅の3倍もの大型エレベーターを入れて対応し、さらに高い性能を要求しながら機械の価格を叩く、メンテナンスの価格を叩くという事をしていて、政府が不具合発生件数も把握せずに規制を緩和し続ければ「いつかおこる事故」は避けられないだろう。
 今回事故が起きた事は不幸だし、避けられる条件があっただろうことは否定しないが。