ちゃんと書いておこう
http://d.hatena.ne.jp/kumakuma1967/20071225#p4
とりあえず私の知っている事実や説、感じた違和感について書いておく。
俗説1:一日に水をコップ8杯は飲むと良い
だいたい1.6Lである。米国は軍事国家でもあり、どの程度兵士に水を供給すれば戦力を保てるかのような研究はものすごく得意なはずで、溢れるほど文献がありそうだ。
記事では、食べ物からの水分摂取を含めて考えればよく、普通にジュースや牛乳を飲めばよいと指摘している。「普通に飲む」のがジュースや牛乳であるというあたり、アメリカ人らしいといえばアメリカ人らしい。ただ、医師が臨床において水分摂取を薦める際、一般的に肥満傾向の高いアメリカで「ジュースや牛乳を飲め」と言うのだろうか?
俗説2:脳の90%は使われていない
おそらく、「脳の90%の機能は解明されていない」を誤読した俗説かと思われる。
1955年にアインシュタインが死亡し、その脳が切片標本になり、写真撮影と計測の結果、灰白質*1は通常人と相違がなく、通常人との違いは白質*2の量が多いという所見が出て、脳の約90%を占める白質の機能が注目された。
1966年にマリア・ダイアモンド博士が「刺激的な環境では神経細胞を栄養的に支えるためにグリア細胞が増える」というマウスでの実験データを出し、仮説を検証するために、保存されていたアインシュタインの脳*3を再度検討*4して、1985年に自説が正しいという論文を出している。*5
しかし、脳の中でグリア細胞は栄養に限らず様々な機能を果たしており、1939年にはすでに、グリア細胞の一種のミエリン細胞がどのような役割を果たしているかについて日本人生理学者、田崎一二*6が論文にしており、すでに脳の90%を占める白質の機能の一部は解明されているのだった*7。したがってアインシュタインの死に際して「脳の90%の機能は解明されていない」と大騒ぎしたこと自体も当時においてすら俗説的なものであったのだろう。
アメリカ医学界の不勉強な体質は、1955年以降現在まで継続的にあると考えていいだろう。
俗説3:毛や爪は私たちが死んでからも伸びる
伸びますよ。細胞死するまでは細胞が活動しますから。それ以降は乾燥とか湿気とかの影響もありそうだけど。
一般的に医学的な人の死は心臓死、まれに脳死を言う。細胞死はそれより後になるから、当たり前だと思うんだけど。
俗説4:毛をかみそりで剃ると濃くなる
剃らないでのばしてみましょう、細くなる気がするんですが気のせいでしょうか?なんてのはおいておいて、太くならないという俗説を検証するために行われた順天堂大学医学部皮膚科坪井良治助教授の実験によれば、マウスの毛は太くなるそうである。*8私は文献研究より実験研究を優先する。
俗説5:暗い所で本を読むと目が悪くなる
夜間の照明が明るくなっても近視が減らないから、暗い所で本を読んでも目は悪くならないというのは何をいっているのかわからないなぁ。近視に限って言えば原因は一つでなく複雑で、いまのところはっきりしない。したがって、暗い所で本を読んで近視になるかどうかは複数の条件のうちの一つだけを言っていて、なんとも言いようがない。
しかし、暗い所で本を読むと眼精疲労になることは知られている。眼痛、頭痛などの原因になるほか、ピントの調節速度なども低下する。つまり、暗い所で本を読むと目は悪くなるのだ。少なくとも私は眼科医で暗い所で本を読んでいいなんていう人を知らない。
俗説6:七面鳥を食べると眠くなる
例えばラベンダーの匂いがしただけで眠くなる動物だぜ、人間ってのは*9。七面鳥は冬至の時期の季節的な食べ物で、アルコールつきのディナーで出る事が多いのであれば、眠くもなるだろうさ。なんでこんなの「医学的な俗説」に入ってるんだ?
俗説7:携帯電話は病院の医療機器に影響する
「英米の研究では非常に頻度が低い」そうだ。英米では脳波計を滅多につかわないらしい。