失業率と犯罪の相関ってなんか珍しかったんですか?

 ソースに問題があるとかじゃなくて、驚いている人もいるようなんで、この表題。

ソース:犯罪の九割は失業率で説明がつく
http://www.mii.kurume-u.ac.jp/~tadasu/essay_80114.html

失業率と犯罪の相関を調べてみることをすすめた。
 実は、この問題は大竹文雄先生がすでに取り上げておられて、『経済学的思考のセンス』(中央公論社、2005年)pp.174-176にも密接な相関がある旨書いてある。同書に載っているのと同じグラフが以下の論文でも載っているのでご覧いただきたい。
http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ohtake/paper/situgyoitami.pdf
 見てお分かりの通り、犯罪発生件数と失業率を年ごとの折れ線グラフにかくと、とてもよく似た波形を描いている。これは、2003年の論文だから右端は上がりっ放しだけど、その後、景気が回復して失業率が減ると、犯罪率もおもしろいほどいっしょに減っている。
 しかし、これはグラフで示されているだけで、統計的分析がなされているわけではない。

はてブ
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.mii.kurume-u.ac.jp/~tadasu/essay_80114.html

 こういう事をきちんと統計的に扱うことによって新しい概念や、経済統計において何が実質的であるかの検討につながり、さらなる経済分析の向上につながるよい学問的成果だと思います。

 だけど、たとえば植生の話で、屋久島では標高にしたがって温度条件に適応した群落が分布し、亜高山帯、冷温帯、暖温帯、亜熱帯の群落が成立していますみたいな話があるじゃないですか。いろんな群落類型が温度条件に従って分布している様子を統計的に扱う事に意義があるのはわかります。わかるんですが、そういう成果が出た時に「本当に冷温帯は温度条件に従って分布する」って驚きますか?

 こういう知見について懐疑的に見る癖がなかったせいかもしれないけれど、失業率が増えれば犯罪なども増えるって事自体は、普通に考えて常識的な事なので、特に疑ってなかった。そういう事があるから、現代資本主義が成立してるのだと思っていた。
 いわゆる「社会主義国」体制が崩壊したから、社会的な全ての努力が無意味だというような事はおもってないし*1。それを疑っていたらSimCityもできやしない。

グラフを見て最初に思ったのは、警察や少年保護や裁判制度や地域防犯活動などなどの経済以外の努力は「非常にうまくいっている」という事。
犯罪の抑止はさまざまな側面の総合力の成果なんですよ。で、諸側面のうち「完全雇用の失敗」と相互に強い相関を持つ側面以外の分野に著しい欠点がないので、ほとんど失業に犯罪がリンクしているわけです。犯罪その他の社会不安を減らすために失業率以外の努力がいらないわけじゃないと思います。

経済以外には犯罪を増やすような失点がない、これは本当にすごい事です。経済的な要因でふえつつある犯罪に対処してる全ての人に感謝しなくちゃ。

戦前の新聞記事などを丹念に調べ上げ、戦前がいかにとんでもない少年犯罪多発時代であったのかを明らかにしている。まあ、現代の若者などとても足下に及ばない、猟奇犯罪、短絡犯罪、幼女レイプ、家族殺し、傍若無人の数々。富めるものも貧しきものもやりもやったりである。

大恐慌の研究の一環として面白そうですね。戦前の犯罪。
経済学の範疇の外かもしれませんが、戦前の犯罪記録と失業率の対照から、犯罪発生率に影響を与えそうなイベントなどが分析され、どのように「犯罪発生の変化がほとんど失業率だけで説明できるような状況」に収束したのかが明らかになる事を期待したいなぁ。

あと、はてブでも指摘されてましたけど、定数項が70万ー50万あって、この部分については失業率を0にしても残る犯罪ってことになる。
気になる所だ。
あるいはNAIRUを実現した時の犯罪数の方が本質的なのかもしれない。
こういう犯罪に対して1959年以降、特に有効な手だては見つかってないって事なんだろうな。


追記:
農学的に考えると、経済運営があまりにもうまくいっていないので、その他の効果が観察されないほどになっているって事なんだろね。
「リービッヒの最小律」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%93%E3%83%83%E3%83%92%E3%81%AE%E6%9C%80%E5%B0%8F%E5%BE%8B

*1:そういう事をいう人がいる事は知っているけどね。