大阪府についての私の見方。

あくまでわかりにくい所があったかもしれないので所感の説明をするだけです。読んだ方の意見が私と異なったとしても、それは尊重いたします。

http://d.hatena.ne.jp/kumakuma1967/20080624/p1に対し、ブクマコメントで

論理にマジックがあるような。府民=株主/知事=経営者はいいとして、この場合職員=民間の社員であって銀行役は大手ゼネコンになるんじゃない?社員への債権は給料未払いではないから存在しなくね?

という疑問を頂きました。

社員と言う言葉をどういう意味でお使いなんでしょう?会社員(会社の従業員)の意味でしょうか?
権利義務の基本規定である民法上は、従業員は従業員であるだけでは法人の社員*1としての資格を有しません。株式会社ならば株主=有限責任社員です。従業員は法人と契約して働く人ですから法人との契約上の権利義務を有する人ですね。

部分的な意味でも法人である会社は従業員の持ち物ではありませんし、法人としての大阪府大阪府職員の持ち物ではありません*2
従業員=社員という体制を作るためには一部の新聞社のように株式を公開せず、従業員に半強制的に株式を持たせる仕組みをつくらないといけません。*3

知事の提案というのは法人と従業員の間の労働契約を書き換える話なんですね。
契約には「これこれの仕事をしたら毎月いくら、ボーナスいくら、退職時いくら支払う」などと書いてあります。契約した従業員は労力を提供するなどの義務を、法人は給料の支払いなどの義務を負います。

退職金っていうのは働いた報酬を後払いにするシステムですから、契約にもとづいて労働が行われた時点*4で法人側に支払い義務*5が生じ、従業員側に支払いを受ける権利(債権)が生じます。企業の貸借対照表を見れば、退職金制度がある会社では、「負債の部」の中に退職金支払いのための引当金が債務としてきちんと計上されているのが普通です。

知事の提案内容を退職金についてだけ取り出してみると、すでに大阪府府民と知事)が負っている債務が免除される*6のでバランスシート(貸借対照表)が改善するというものです。現在締結している有効な契約内容を書き換えて再締結することによって、すでにある債務を消滅させてバランスシートの改善をするのですから債務免除そのものなんではないでしょうか。大阪府のバランスシートを見てみると、退職給付について、府民一人当たり10万円ほどの債務を負っています。これを5%免除してもらって9万5千円にするわけですね。

債務免除ですから、債権者の同意を取付けなければ単なる債務不履行という事になります。バランスシートの悪化を理由に、合意もなしに一方的に債務不履行を宣言したわけですから、民間企業なら「すでに経営破綻した」ということになり、債権者が裁判所に破産などの申し出をして、整理手続に入ります。(従業員への債務であれば、暗黙であっても、従業員が自分の意志で給与未払いの予告などを我慢してる間はそんな事にはなりません。念のため。我慢してる間に、どんどん事態が悪化してとれるものもとれなくなる可能性も高いのでしょうが。)
 民間企業で大阪府くらいのバランスシートならば、既存株主を完全に排除(100%減資)でき、支援してくれる出資者が見つかれば、従業員の雇用も事業も大部分継続する可能性が高いのではないかと思います。
 バランスシートの悪化*7が理由でなければ、財産の差し押さえなどを伴う民事訴訟で無理矢理債務を履行させればいいだけですけどね。

 残念ながら、大阪府は民間企業ではありませんから、そう簡単に潰す事はできません。
 私が考えた事は、今回の団交が「債務免除の同意をとりつける場」だったということなんです。知事は組合と合意する気は最初からなかったようなので、個別に同意を取付ける自信があるのか、踏み倒して得意の訴訟に持ち込むつもりなんでしょう。
そういうわけで、私には、知事が「役所はつぶせないから大丈夫」みたいな「民間ではあり得ない」事を言っているみたいに見えるわけです。*8

 なお、民間企業で同様の問題が生じた場合は、組合と合意の上、一度従業員の雇用を打ち切り、退職金を精算*9して、新たに設立した子会社で低い給与水準で再雇用するといういわゆる「リストラ」が行われる事が多いようです。もちろん比較的健全な企業では、一部の従業員はリストラに合意しませんし、健全である以上、合意しない従業員をクビにする事は法律上できないと解釈されているようです。
 リストラ後、従業員の同意を完全にはとりつけられず、少数の人が本社に残って、まったく仕事に従事してない*10、なんて会社もあります。選択権は従業員側にあることですから、仕方がありませんし、会社全体としては健全になるので、かなりドライに損得を考えて経営しているのでしょうね。
 できればそういう会社の社員(株主)になって、株主総会をご覧になる事をお薦めします。右寄りの株主は「そういう従業員が一人でもいるのは会社にとって大問題だ」と突っ込みますし、左よりの株主*11は「法律に沿った経営」を求めます。担当取締役が苦虫を噛み潰したような顔*12をつくって「法律に許される限り株主の利益を優先して経営した結果、このくらいバランスシートが改善し、損益にもプラスだった」と答えて議論が打ち切られ、左右両極の株主からヤジが飛ぶがうんざりした多数の株主の拍手に打ち消される、といった流れになってます。破綻のない経営というのはそういうものなんでしょう。
 僭越ながら、公務員のみなさんに民間のいいところを学んでもらうのは多分大事だと思いますが、国や自治体も法人である以上は、知事さん、大臣さん、議員さんにも最低限の事は学んでもらう必要があるだろうと感じている所です。*13

*1:法人と権利義務を共有する人

*2:そんな事言ったらそれこそ「私物化!」、ですよね。

*3:余談ですが、マスコミの給与水準が高いのは「不当な利益を上げてるから」より、業界内に社員=従業員体制をとってる企業があるから、という面があるのではないかと思っています。

*4:従業員側が債務を履行した時点

*5:会計上の債務

*6:従業員が持っている債権が消滅する

*7:債務を履行する能力がないこと

*8:もちろん、職員もたくさん言ってるんでしょうけどね。

*9:債務不履行が発生しないように債権債務を一度きちんと清算するわけです。

*10:私なぞ、そういうのはかえってつらいので同意する事による損があまりに大きくなければ同意しちゃうと思いますが。大きすぎない損の金額をシビアに突き詰める所が経営のキモなのかもしれません。

*11:従業員の持ち株を集めて労組代表も出席してます

*12:あまりにも想定通りの質問で、担当以外の取締役や監査役の中にはつい笑っちゃう人もいたりします。こらこら。

*13:って、大阪府の知事さんは、経営者を法的にサポートできる現役の弁護士さんなんですよねぇ.......