喫煙とうつについての雑感

 専門家でない人の個人的意見ですし、それほど信頼を置かないで読んで下さい。

 昨日のタバコ税の話の続きですが、私は、この手の国の政策は予防接種でも道路の規制速度でも税金でもなんでも「死ぬ人の属する層が変わったりする」ものだと考えています。そこに基礎を置かなければ健康になんぞ寄与できるはずがないからです。
 でも、効果があってもなくても、それまで死んでたような人が生き残ったり、生きてたような人が死んで行くという事ですから、それなりの重みをもって議論すべきという事ですね。

 まず喫煙率と健康について考えると、先進国を見渡して日本の平均寿命は突出しています。喫煙率は過去にも低くないし、今でもけして低くない。喫煙が寿命をきめる「国策的に重要なファクター」である可能性はほとんどないと判断しています。*1また、私が学生だった頃までは駅のホームは全面的に喫煙が許されていて、日本の都市生活者はほとんど受動喫煙していたと思いますが、それでも有数の長寿国であったわけです。

 「喫煙する40歳男性の平均寿命は喫煙しない40歳男性より3年ほど長く、喫煙率が40%程度」ってコーホートから、禁煙政策の効果の限度を考えてみましょう。「喫煙を100%なくせば、男性の平均寿命が短期的に1年ちょっと、長期的にはもう少し伸びる可能性もありうる」程度ではないでしょうか。受動喫煙については、近くでタバコを吸われた人の肉体に受動喫煙の証拠が残っている事は事実として確認されていますが、厚生労働省の大変な努力にも関わらず、「受動喫煙者の平均寿命」と「日常的には受動喫煙しない人の平均寿命」には差が見られていないと記憶しています。*2

 そういうわけで私は、受動喫煙も含め、喫煙習慣が健康に有害である事は全く疑ってないけれど、国レベルの「健康問題」としてはさほど重視していません。*3

 一方で、うつの問題についても考えてみましょう。
 日本人が遺伝集団として他の集団よりセロトニンの生合成能力が低い事は良く知られていますね。ですからうつと自殺は、特段に遺伝的に配慮しなければいけない事項が見つかっていない喫煙よりも、国策的に取り組むべき課題と考えています。*4

 また、厚生労働省の平成15年のデータ*5でも日本人の平均寿命を最も縮めているファクターは自殺です。縮めてるってことは、「比較的うまくいって来た対策がうまくいかなくなってきた事」を示していると考えています。

 個人的な判断基準で建築物に例えれば、禁煙は耐震性、うつと自殺は現に座屈してる柱みたいなもんでしょうか。*6

 でも、現に座屈してる柱と耐震性だったらどっち優先ですか?

 事の軽重についての判断が他の人と重ならない事は重々承知ですが、自分なりに*7データや論文を見て、健康や寿命に関わるファクターを真面目に考えて、うつを重視しています。
 また、考えた結果、私は、健康増進法の重点を喫煙問題に置いた人に、そもそも国民を健康にしたいという動機があったかどうかすら疑っています*8

 そして、喫煙とうつ、この二つの問題には相互に関係性があり、禁煙がうつの症状を変化させたり、うつ病発症の契機になる可能性が高い事は、大方の喫煙の害と違って*9、作用機序の整理もついていて、ある程度一般的に受け入れられている事実だろうと思います。
 禁煙が多くの人の健康を増進する事は多分確かですが、「国民の健康」が大事なら、現に喫煙する習慣のある人が禁煙するような状況がある場合にはうつや自殺への配慮があってしかるべきではないでしょうか。そうでないのなら、やはり主題は嫌煙や喫煙者差別であって、健康ではないのでしょう。

 繰り返しますが、タバコが一箱500円になったり、1000円になったりする事に反対するつもりはありません。*10

*1:あるいは、それが日本人の遺伝的特性に依拠するものである可能性もありますが。

*2:健康増進法制定時の国会論議のバラ色具合にはついていけなかったことを白状しておきます。

*3:ただし、受動喫煙の不快感をどうするかという問題に真摯に向き合うべき、と考えています。喫煙者としてきっぱりと書いておきますが、迷惑な喫煙の仕方を是認するわけではまったくありません。私は喫煙者ですが、特急指定席では禁煙車を指定する程度には、喫煙中以外の受動喫煙は嫌いなのです。また、医療関係者からみたら、治療した患者がわざわざ不健康な習慣を持ち続ける事は不快感があるだろうな、という事も理解しなくてはいけません。

*4:はっきりと言うと、「日本人は欧米人に比べて甘っちょろい社会の中でしか力を発揮できない特殊性がある」と考えているという事です。よその国はともかく、国民皆年金や国民皆保険は、おそらく日本社会に必須のシステムなんじゃないかな。だからちゃんと機能してほしいのであって、不安ばかりあおる阿呆は大嫌いですが。

*5:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life03/life-1.html

*6:このへんは専門家でないので想像力の限界かもしれません。

*7:自殺で同世代の同僚を%単位で失ったとか、喫煙者であるというバイアスはあります。客観的だとは言いません。

*8:シバキ主義とか超過労働とか安月給を規制すればいいのに

*9:温暖化と同じで、喫煙の害についてもトンデモ論説が非常に多いし、それに対抗する側にもトンデモ論説は多いです。温暖化よりきちっと切り分けられている自信はない事も白状しときます。結論として喫煙は健康に有害であるという説を支持しています。

*10:個人的な問題として捉えれば、仮に喫煙を続けたとして、喫煙者としては経済的な負担がありますが、嫌煙者としてのメリットがある事は期待できます。どっちがでかいかは判断してません。社会的にはプラスの側面もあるけど、下手をすればマイナスの側面が上回る可能性もあると思います。