車のスペックについてのギモン

【ホンダ インサイト 新型発表】プリウスとの違いは『目隠しして乗って』!?(レスポンス)
http://response.jp/issue/2009/0209/article120157_1.html

ホンダ四輪統括部営業開発室の井口郁氏は「ある意味ハイブリッドカーらしくない、走る曲がる止まるという基本性能がしっかりしているクルマ。今までは『ハイブリッドだから』というところで我慢していた部分があったかもしれないが、インサイトは普通のガソリン車と同じドライブ感覚を楽しめる。ブレーキのフィーリング、ステアリングの切った感じ、加速感など、目隠しして乗ると普通のクルマと違和感がないぐらいだ。1.8リットル車なみのトルクがあって結果的に低燃費であるところ。そのあたりがプリウスとの決定的な差別ポイントだ」と自信を込めた。

うーん、「ハイブリッドカーらしさ」の基準がプリウスになっているあたり、ちと意識し過ぎだと思う。
それはおいとくとする。

この発言ですごく違和感があるのは、まるでプリウスがトルクが足りない車みたいな言い方をしているあたり。
プリウスでトルクが足りないと思った事はないよ。*1
マニュアル車やトルコンAT車と比べてプリウスに違和感があるのは、どんな状況、どんな速度でも踏めばトルクがでるし、踏まなければトルクは出ないということ。踏んでからトルクが出るまでのタイムラグがわかりにくい事。そのくらい。

 今度出る新型以前のプリウスにはトランスミッションはないと最近考えるようになった。*2
 だって、3軸を遊星歯車で結合していて、一つの軸がエンジンに、一つの軸が発電機に、一つの軸がモーターのついたドライブシャフトにつながっていて、常にエンジン軸と発電機軸の差がドライブシャフトに出力されるだけなんだもん。変速機構なんてないわけです。トルクの要求がアクセルペダルに伝われば、3つのユニットの出力を変化させて要求されたトルクがドライブシャフトに出るように調整し、電気が足りなくなりそうならエンジンの回転数を上げてるだけ。*3だからどんな速度でも踏めばトルクがでるし、踏まなければトルクは出ない。*4

 トランスミッションのある車だと、エンジン軸とドライブシャフトを歯車でつないでその間の回転数比(ギア比)を変化させる事ができる。減速比を大きくすれば、でかいトルクが出るし、減速比が小さければトルクは出ない。アクセルは吸気/ガソリン量を操作してエンジン出力を変化させ、オートマチック車では速度とアクセル踏み込み量を監視してギア比を変える。だから、加速しようと思ってアクセルを踏み込むと、一定のトルクがドライブシャフトに伝わるわけではなくて、がくがくと変化している。ある部分ではトルクが出過ぎてるし、ある部分ではトルクが足りないけど、平均的にならすとなんとかなっている感じ。

 僕がオートマ車に慣れなかったのは、エンジン出力がトルコンに喰われて隔靴掻痒な感じがしたのと、オートマが勝手に判断してガクガクと出力が勝手に変化する事だった。マニュアル車では、速度計とタコメータを見てギアチェンジして必要なトルクを産むだけアクセルを踏めば良かったのに、オートマ車ではどんな出力になるのか、想像がつかないのだった。

 プリウスではトルクを直接アクセルペダルで調整できるので、発進時に「1速に入ってるからそろりとアクセルを踏む」ような小細工はいらない。ただ必要に応じてアクセルを踏むだけ。正直言って今の日本車のトルコンオートマよりはるかに信頼できるシステムになってると僕は思うよ。

 で、最大トルクそのものはおそらくインサイトの方がでかいのだと思う。でもトルクなんて1速ではホイールスピンする以上はあってもしょうがないし、高速では5.5%の上り坂で80→100km/hの加速を500m以内でできるくらいあれば十分すぎるでしょ。公道でそれ以上のトルクを使うのはそれ自体迷惑行為だし、楽しみでサーキットに行く人はインサイトには乗らない。
 アップダウンのある高速道路で一定速度を保って走るのはMTやプリウスは非常に楽だし、他のオートマの車種ではトルクがあればあるほどメンドクサイ。

 20型プリウスも「十分なトルク」「走る楽しみ」を売りにしてた。そして僕はそのときトヨタにあきれた。だって初期型プリウスのマイナーチェンジ後は合法的に走行してる限りトルクも馬力も足りない場面なんてほとんどないのに。余分なトルクが増えた結果は、迷惑な走行をする人が多い車になっただけだと思うよ。
トルクや馬力が十分なら、必要なのはより高いコントローラビリティでしょ。暴走する必要はないし、暴走する車を追尾する能力が必要なのはパトカーくらいなんだから。

 僕は前のも今のもインサイトはいい車だろうと思う。

 でもね、目標速度通りにコントロールするのに車のご機嫌を取り続ける必要がある車を作り続けている一方で、走る楽しみとか、加速感とか、そういう事言うのはやめて欲しい。

.......できればMTも出してくれるとうれしいなぁ。

*1:嘘だった。そういえば、後退するとき(プリウスは後退時はモーターだけしか使えない)に段差があって、もう少しトルクが欲しいと思った事がある。

*2:プリウストランスミッションというのはwikipediaでも議論になってる。電気的CVTだと記事には書いてあるが、僕は軸回転数の比が一定の機構はトランスミッションじゃないだろうと思う。

*3:プリウスの場合、エンジンはだいたいその回転数における最大トルクで運転されます。余分のエネルギーがあれば充電されるか、回転数が下がります。

*4:こういうやりかたではエンジンを正常な回転数に保つために発電機軸が高速回転に耐えなくてはいけないので、その意味での制限はあるのだけれど。