どうしてインフルエンザウィルスの弱毒性と想定すべき被害の大きさが直接結びつくのかわかんない。

 都道府県知事は最前線にたっている公衆衛生専門家や医療関係者の指揮命令権者であり、当然ながら専門家の意見を踏まえた上で発言しているはずだ。
....はずなのだが......
 今朝のテレビで発言する某知事の様子は用語の使い方一つをみても、とても専門家と話をしたことがある人の様子には見えなかった。
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20090518-495807.html

今回の新型インフルエンザは弱毒性とされるため、橋下知事は舛添氏へ「新型インフルエンザの毒性の知見をしっかり示してもらいたい」と要望した。

うーん、その「毒性の知見の基礎がため」ってまとまった数の確定患者を抱えている大阪神戸の公衆衛生担当者/医療関係者、すなわち知事サイドができなきゃ他に誰もできないと思う*1が、なんで国に要望?
お客様なの?この人。

「兵庫と大阪でこれだけの知見が出たから、国のガイドラインは即刻改訂すべきだ*2」、とか、「大阪府がしっかり知見を示すために金と人を出してくれ、きっと国と府民、そして国際社会にもメリットがある」とかいうなら筋は通るのだけど。*3

 「弱毒性」とか、「感染者の致命率が低い」とかいう情報が、「想定すべき被害の大きさ」と「とるべき対策」に直結してしまうあたり、本当に「専門家を率いる指揮官」として仕事してるのかなぁ......
 たとえば致命率がとても低くて、多くの人が症状もでないような弱毒性ウィルスだったとすると、多くの感染者は無自覚のうちに社会の至る所で病原体をまき散らして、感染者を増やしてしまう。*4
 致命率(死亡者数/発症者数)が半分でも、感染者数が10倍あって結果的に発症数が2倍ならば死亡者数は同じになるし、発症数が急激に増えて対処の必要な患者数が増えて医療の能力が追いつかなければ、ウィルスの毒性には変化がなくても、致命率は上がりうる。

 「このウィルスがメキシコで大被害をもたらした」という蓋然性を留保しているのならば、弱毒性であっても「わからない事が多い、危険な病原である」という意見も留保しなければならないだろう。
 まともな公衆衛生担当者がいる国なら「弱毒性だから新型インフルエンザが蔓延してOKとかいう国からの入国はお断り」にもなりかねない。*5
 「ちょっとややこしい義務教育の算数の問題」がわかんないタイプの人や、「風邪ぐらいでは休めない」とかいって大量のウィルスまき散らして他人の命を危険にさらす自分の都合しか考えないタイプの人とかに「弱毒性」って知見を与えるというのは、社会的にものすごく危険な事かもしれませんね。*6

 素人としては、「ブタと人の感受性についてはある程度発信されてるけど、鳥類のこのウィルスに対する感受性に関する知見があまり耳に入ってこないように思う。メキシコで被害が大きかった州は、確か南北アメリカを移動する渡り鳥の『聖地』とよばれる地域だったと思う。『鳥による媒介』の可能性があれば、えらくめんどくさい話だな」みたいな事考えてる方がまだ幸せ。

追記:(5/20)
ついに神戸市長が大臣に会いましたね。要望ではなく、要求を突きつけて、おそらく引かない構えでしょう。知事二人と違って、医師会との連携もとっているようだし、首長の仕事をしているという印象。

*1:科学者って、「ゴジラが来たのでオキシジェンデストロイヤー下さい」って言えば出してくれる人なの?普通は「ゴジラって何ですか?」からで、ゴジラを説明できるのはゴジラを見た人だけだ。だから、WHOも大阪と兵庫に注目してる。

*2:銀行の受付の人や、駅の売店のおばちゃんが感染するって事は、ヘタすると濃厚接触の定義も更新しなきゃいけないだろうな。けっこうな感染力だ。

*3:いざ仕事があるとなるとこのていたらく.....どんだけ中央集権主義なんだよ......やっぱ地方自治とか、無理なんじゃない?

*4:もしHIVが「エッチして翌日には症状が出て3日で死に至るような強毒性ウィルス」だったらこんなに広まりませんって。感染者が大量の病原体をまき散らせる程度の弱毒性というのは、むしろ社会全体にとってのリスクの大きい伝染性感染症病原の「前提条件」なんだが......

*5:つーか、患者数見た時には、「関西方面への修学旅行は中止すべき」なのかどうか明確な意見がなかったけど、大阪と兵庫の知事の発言が報道されて、かなり「中止した方がいいんじゃないか」によった。学校個別に専門家の意見を聞いて決めるべき事なので中止してもしなくても親としてそれを責める事はない。けど、地域の医療と衛生の責任者があれじゃまともな対応はあり得ないんじゃないか、と「内戦中の発展途上国に修学旅行に行くと言われた」ような気分に一瞬なりましたよ。冷静に考えれば、調査が進めば関東東海近畿は感染者がまとまって出てくるだろうし、どうせこっちも公衆衛生未開地域なんで、集団生活のリスクだけみとけばいいのだろうけどね。

*6:季節性インフルエンザで同級生が永遠にいなくなってしまったり、髄膜炎で重い障害になったりという体験や具体例の知識がないのか、体験や知識があってもそれを受け止める感受性がないのか.......普通にそういう体験が共有されていいくらいの数の重症者が出てる病気なんだがなぁ。季節性インフルエンザで、死者も出て地域が壊滅的な状況になってほぼ全ての児童生徒が感染するまで公立学校が学級閉鎖しない理由とか、少しわかる気がする。